調味料の選び方|板前が見ている、たった一つの基準

家で料理をしていて、なんとなく味が物足りない。

そう感じたとき、多くの人は入れる量や順番を疑うと思います。

でも実は、その前の段階でもう決まっていることがあります。

何を使っているか、です。

僕は和食の調理を仕事にしていて、店で使う調味料は自分で選んでいます。その調味料の選び方には、味の好み以前に、はっきりした基準があります。

店での調味料の選び方——味を比べる前にやっていること

新しく調味料を入れるときは、いくつか取り寄せて、実際に味を比べます。

そのうえで、店の味付けに合うものを残す。ここは地道な作業です。

ただ、その比較に入る前に、大前提として確認していることがあります。

自然由来であること。

これを満たしていないものは、味を比べる土俵にすら上げません。

理由は単純で、化学調味料が入っているものを使うと、せっかくの食材の持ち味が消えてしまうことがあるからです。

調味料は、味を足すためのものではありません。素材が持っている味の輪郭を、はっきりさせるためのものです。

その調味料自体に強い味がついていたら、輪郭をなぞるどころか、上から塗りつぶすことになります。

「みりん」の棚に3種類あるのを知っていますか

分かりやすい例が、みりんです。

スーパーの同じ棚に並んでいますが、実は別物が3種類あります。

本みりんは、米、米こうじ、焼酎(または醸造アルコール)から造られたもので、アルコール分は約14%あります。

みりん風調味料は、水あめなどの糖類に、醸造調味料や酸味料を合わせたもの。アルコール分は1%未満です。

発酵調味料(みりんタイプ)は、糖類と醸造調味料に食塩を加えたもので、塩分が約2%含まれています。

同じ「みりん」の顔をしていますが、中身はまったく違います。

特に気をつけたいのが、塩分が入っているタイプです。レシピどおりに作ったのに塩辛くなった、という経験がある人は、これが原因かもしれません。

意図していない塩分が、最初から入っていたわけです。

つまり、味付けが決まらない原因が、そもそも調味料の中身だった、ということが起こり得ます。

調味料の選び方|みりん3種類の違い(本みりん・みりん風調味料・発酵調味料)
同じ「みりん」の棚に並ぶ3種類。塩分が入っているのは発酵調味料タイプです。

醤油はラベルに製法が書いてある

醤油も同じで、同じ棚の中に、中身がまるで違うものが並んでいます。

しかも醤油の場合は、ラベルに製法がそのまま書いてあるので、見分けるのは簡単です。

本醸造は、大豆と小麦に麹と塩水を合わせ、半年から8か月ほどかけて発酵・熟成させたもの。うま味は、その発酵の時間そのものから生まれます。

混合醸造は、その発酵途中のもろみに、アミノ酸液などを加えて、さらに一か月以上熟成させたもの。

混合は、出来上がった生揚げ醤油に、アミノ酸液などを加えたものです。

後ろの2つは、うま味を後から足しています。悪いものだという話ではなくて、成り立ちが違う、ということです。

僕が店で使っているのは、地元の蔵で造られた本醸造です。

素材の輪郭を出したいときに、醤油自体のうま味が強すぎると、そちらが前に出てしまう。だから、うま味を後から足していないものを選んでいます。

ラベルの「本醸造」という4文字を探すだけなので、見分けること自体は今日からできます。

調味料の選び方|醤油の製法3種類の違い(本醸造・混合醸造・混合)
うま味がどこから来ているか。醤油はラベルの製法表示で見分けられます。

塩と砂糖も、同じ見方で選ぶ

塩や砂糖も、精製されすぎていないものを選んでいます。

精製の度合いが高いものは、味の角が立ちやすい。逆に、ミネラルなどが残っているものは、同じ「しょっぱい」「甘い」でも、味に幅があります。

素材の持ち味を引き出したいときに、この幅があるかどうかで仕上がりが変わってきます。

栄養価という意味でも、削ぎ落としすぎていないものの方がいいと思っています。

塩そのものの違いについては、塩の使い分けの記事に詳しく書いています。

油だけは、別の基準で選んでいる

ここまで、ラベルを見て選ぶという話をしてきました。

ただ、油に関しては、ラベルを見てもあまり多くのことは分かりません。

僕が油を選ぶときに見ているのは、熱に強いかどうかです。加熱して使う油と、そのままかけて使う油は、はっきり分けています。同じ油をどちらにも使うと、風味も油そのものも変わってしまうからです。

ここは話し出すと長くなるので、別の記事にまとめます。

白だしと濃縮めんつゆについて

ここは少し言いにくい話です。

最近は白だしという便利なものがあります。濃縮めんつゆもそうです。

これらが便利なことは間違いありません。忙しい日に、あれ一本で味が決まるのは本当に助かると思います。

ただ、店では使いません。

理由は、多くの製品が、だしや醤油やみりんに加えて、うま味をつける添加物でまとめてあるからです。

一本で味が決まるということは、裏を返せば、その一本がすでに完成された味を持っているということです。

そこに素材を入れると、素材がその味に染まります。何を作っても、同じ方向の味になります。

家庭で使うなというつもりはありません。時間がない日に使うのは、まったく悪いことではないと思います。

ただ、「今日はうまく味が決まらないな」と感じる日が続いているなら、一度、そこを疑ってみる価値はあります。

自分の腕の問題ではなく、道具の側に理由があることは、わりとよくあります。

今日、台所でできること

難しいことではありません。

今使っている調味料の、裏のラベルを見てみてください。

原材料の欄に、何が書いてあるか。米や大豆や塩といった食材の名前だけなのか。それとも、その後ろに聞き慣れないものが並んでいるか。

それを知ったうえで使うのと、知らずに使うのとでは、次に迷ったときの打ち手がまったく変わります。

味が決まらない原因を、自分の腕だけに求めなくてよくなります。

まずは一本、みりんか醤油から見てみるのがおすすめです。

最後に、ここまで書いておいてなんですが

自然由来がどうとか、本醸造がどうとか、ずいぶん堅い話をしてきました。

なので、白状しておきます。

僕は卵かけご飯が大好きなのですが、これに使う醤油は味付き醤油です。
ご存知の通り美味しい醤油があればそれだけで十分おいしくて大好きなんですが、たまに
「これはっ!」と見つけて買ってしまうことあります。

黄ニラ醤油という、岡山の醤油屋さんが作っているもの。黄ニラは日光を当てずに育てたニラで、普通のニラのような強い青臭さがなく、香りがやわらかい野菜です。それを醤油に合わせてあります。

何度か買って、すっかり気に入りました。

とら醤油の黄ニラしょうゆ。これです。

厨房では「一本で味が決まるものは使わない」と言っておきながら、家では平気でかけています。

言い訳をさせてもらうと、店と家庭は別だと思っています。

店は、お金をいただいて食べてもらう場所なので、芯を通します。素材の輪郭を出すために、余計な味は足さない。

でも家庭の食卓は、もっと自由でいいはずです。今日は面倒だからこれ一本、という日があっていい。好きだから使う。それで十分だと思います。

裏を見たら、作れそうだった

ここからが、この記事で一番言いたかったことかもしれません。

ある日、その黄ニラ醤油の裏を見てみました。原材料には、こう書いてありました。

醤油、黄にら、砂糖、発酵調味料、酵母エキス、昆布、唐辛子、こしょう。

全部、食べ物の名前です。

この記事でずっと書いてきた「裏のラベルを見る」を、自分の好きな一本でやってみた結果が、これでした。

そして、眺めているうちに思ってしまいました。

これ、作れるな、と。

しかも都合のいいことに、うちの畑には黄ニラがあります。自分で育てているので。

というわけで、今は自分で作っています。

ラベルを読めるようになると、こういうことが起きます。買うか買わないかを選べるようになるだけでなく、作るという選択肢まで出てくる。

作り方の話は、また別の記事で書きます。

醤油はなぜ「正油」とも書く?種類と選び方

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です